僕はこれまで20年以上に渡り、葬儀業界の人間として生きてまいりました。
葬祭業は24時間対応の仕事であり、深夜であろうと依頼があれば、すぐに出勤しなければならない。
そのため、葬儀会館に社員を当直(宿泊)させ、一晩中待機させておく会社も多くある。
今回は、若かりし頃に僕が葬儀会館に当直で宿泊していた時に実際に経験した“ある心霊現象”について、話そうと思います。
その日は、物音ひとつない静かな夜でした。
葬儀の依頼は一件も受けておらず、この葬儀会館には僕以外に誰もいない。
仕事を終えた僕は当直室に入り、念のために当直室のドアのカギを閉め、深夜にかかってくるであろう葬儀の依頼の電話に備えてその日は早めに布団に入った。
日中の仕事で疲れていたせいか、布団に入るとすぐ睡魔に襲われ、僕は深い眠りへと落ちていった…
…明け方頃だろうか、突然当直室のドアがものすごい音で「ガタガタガタ‼」と激しく揺れ始めた。
まるで誰かが外側から強引にドアをこじ開けて、当直室に入ろうとするかのように。
夢うつつの中で僕は
「あれ、今日はこの会館には誰もいないはず。でも今、確かに誰かがこの当直室に入ろうとドアを力いっぱい開けようとしたよな。
…ははぁ、なるほど。これは心霊現象だな。きっと俺を驚かそうとして幽霊が悪さをしたに違いない。」
僕はこの現象をスルーして、再び眠りについた。
ところでなぜ僕が心霊現象に対して平然としていられるのかというと、その答えはシンプル。
幽霊が怖いなんて言ってたら、この仕事は務まらないから。
とはいってもこの業界にいるからといって、みんながみんな心霊現象を経験するとは限らない。
むしろほとんどの人が、おそらく心霊現象を経験することはないだろう。
しかし眠りについたのもつかの間、再びドアがさらに激しく揺れ始めた。
さすがに二度もやられるとは思ってもいなかった僕は、キレた。
反射的に布団から飛び起き、ドアまで全速力で走って鍵を開け、一気にドアを開いた。
するとそこで目にしたのは…
ドアの外に広がる、いつもと変わらぬロビーの景色。
…誰もいない。
ドアを揺らした犯人を捕まえるため、僕はそのままの勢いで会館内を走り、あたり一帯を探し回った。
しかし、この建物内にはやっぱり誰もいない。
「なんだ、やっぱりただの幽霊のイタズラか…」
僕は再び布団に入り、眠りについた。
翌朝、出勤してきた同僚たちに昨夜の話をしたら、ある一人の同僚が
「そういえば前の日の葬儀で、火葬場に向けて出棺する時に霊柩車のエンジンがかからなかったり、なぜか火葬の時間が長引いたりしてトラブル続きだったな…」
そうつぶやいた。
もしかしたらあのドアを叩いたのは、まだみんなと別れたくなかった故人が戻って来られていたのかも…
真相は、今もわからない。
