#86『成長しても、なぜ人間関係に悩まされ続けるのか?』 | Life Compass

#86『成長しても、なぜ人間関係に悩まされ続けるのか?』

30代の半ば頃、僕はメンターと呼べる人との出会いによって、人間関係の本質を学んだ。

彼から教わった知識により、それまで頭を悩ませていた対人関係は大きく変わる。
相手の感情の動きが見えはじめ、人との距離感のつかみ方が分かるようになり、人間関係をコントロールできる感覚を手に入れた。

でもおかしなことに、人間関係が「うまくいくようになった」はずなのに、なぜか人間関係の悩みが尽きない。
もちろん悩み自体のレベルは以前とは全く違うが、むしろ以前より人が苦手になった気すらしてしまう。

おかしい…なぜなんだろう。
ずっとその疑問を抱えていたのですが、最近ようやくその謎が解けました。

 

嫌いな人が増えたのは、見えるようになったから

ユング心理学に「知覚の分化」という概念があります。

難しい言葉ですが、意味はシンプルです。
人は成長するにつれて、他者と自分の違いをより鮮明に認識できるようになる。
それが「分化」です。

例えば、こんな経験はありませんか?
若い頃は誰とでも普通に話せていたのに、年を重ねてから「この人の話し方、なんか引っかかるな」と感じることが増えた。
以前は気にならなかった言葉が、妙に心に刺さるようになった。
こだわりが強くなり、前より頑固になった気がする。
昔より人付き合いが面倒に感じるようになった。

これを「自分の心が狭くなった」と思う人が多いのですが、実はまったく逆です。

成長する前の状態を、ユングは「未分化」と呼びます。
未分化の状態では、自分と他者の境界線がぼんやりしています。
相手の感情と自分の感情が混ざり合い、相手の価値観と自分の価値観の区別がつきにくい。
だから「なんとなく合わせられる」し、「なんとなく流せる」。
摩擦が少なく、人間関係が平和に見える。

でも、それは本当の平和ではなかったのです。
ただ「混ざり合っていた」だけで、違いが見えていなかっただけ。

しかし成長によって意識が分化し始めると、今まで見えていなかったものが見えてくる。
価値観が違う人と話していると、なんとなくの違和感ではなく「明確な違和感」として感知できるようになる。
言葉の表面ではなく、会話の前提である価値観そのものの違いが見えるようになる。
相手の不機嫌を「自分のせいかもしれない」と引き受けていたのが、「これは相手の感情であって、自分の問題ではない」と区別できるようになる。

つまり「嫌いな人が増えた」のではなく、「以前から合わなかった人が、ようやく見えるようになった」のです。
自分の解像度が上がった、と言い換えてもいい。

 

以前の平気さは、健全ではなかった

ここが一番大事な部分です。
人間関係を学ぶ前の僕は、ある種の「無難さ」の中で生きていました。

相手と自分の違いが見えておらず曖昧だったから、何となく相手に合わせることができていた。
相手の意見を、あたかも自分の意見のように感じたり、相手の感情を自分の感情のように感じていた。
つまり相手と自分がごちゃ混ぜになっていた。
だから、人と衝突することが少なかった。

でも成長によって自分の輪郭がはっきりした今、今度は相手と自分の違いがクリアに見えるようになった。
以前は気にならなかった言葉が引っかかる。
以前は流せていた態度が流せなくなる。
相手と自分の違いを敏感に検知してしまうために、それが目に付くようになった。

これは退化ではなく、進化であり成長。
今の疲れは、実は健全な反応なのです。

 

本物の人間関係とは何か

他人と自分の違いをはっきりと認識できるようになったことにより、僕は一時的に孤独感に襲われました。

これまで仲の良かった相手と、合わなくなる。
これまでのように、誰でも受け入れることができなくなる。
もしかして僕は、もう誰とも分かり合えないのか…

安心してください。
分化が進んだ後の人間関係は、「理解し合える人と、深くつながる」ものになっていきます。

全員と仲良くしようとしなくていい。
合わない人とは、無理に付き合わず、ただ適正な距離に調整すればいい。
そう、周囲の人間との関係の“再構築”が、これから始まる。

今のあなたの感じる「嫌悪感」は、言わば心理的な境界線が他人によって侵されているという警報です。
あなたの心が狭くなったわけでも、性格が悪くなったわけでもない。
だから嫌悪感を否定するのではなく、信号として受け取り、自分に合った関係を自ら選んでいく。
それが人の在り方の成熟であり、本物の人間関係の始まりだと、今は思っています。

成長の途中に感じる孤独感や疲れは、これまでの古い人間関係が整理されていくサイン。
そこを抜けた先に、本当に必要な人たちとのつながりが待っています。

焦らなくていい。
あなたは確かに、前に進んでいます。