#90『相手に合わせるほど、なぜか信頼を失う理由』 | Life Compass

#90『相手に合わせるほど、なぜか信頼を失う理由』

以前の職場に、愛想のいい男性がいた。

誰とでもすぐ打ち解け、場の空気も読んで柔軟に対応する。
会話もうまく、周りの誰からも「感じのいい人」と思われていた。

ある日のちょっとした雑談中、彼の発言に対して「いや、僕はこう思うな」と、彼とは反対の意見を僕が言ったことがある。
すると彼はこう返した。
「いやぁ、そうですよね~。僕もそう思います。」

…あれ、さっきと逆のことを言っている。
責める気持ちはなかった。
ただ、直感的に「この人は信頼ならない」と感じた。

それ以来、表面上は変わらず接しながら、心の中では一定の距離を置くようになった。


こういう経験、あなたにもないだろうか。

仲が悪いわけではない。
でも、なぜか重要なことは任せたくない。
深い話をしようとも思えない。
実は「仲の良さ」と「信頼・尊敬」は、似ているようで全く別のものだったりする。

多くの人が人間関係を築く上で、「いかに相手と仲良くなるか」を優先する。
嫌われたくない。
波風を立てたくない。
だから相手に合わせる。同意する。空気を読む。

その行動の根っこには承認欲求がある。
承認欲求そのものは誰にでもある、ごく自然なもの。

問題は、それに引っ張られて自分の軸を手放してしまうこと。
相手に合わせるほど、自分が薄まっていく。
そして自分が薄まるほど、相手の中での存在感も薄まっていく。

「仲良くなろうとするほど、信頼から遠ざかる」という皮肉が、そこに生まれる。


では、信頼される人はどういう人か?

ここで、別の職場にいた、ある先輩男性の話を紹介したい。

その男性は真面目な性格で、仕事はきっちりこなす。
また約束事は守り、お客さんにも常に誠実に対応する。
まさに誠実を絵に描いたような人だった。

しかしある日の朝礼で、その人が会社に来なかったことがある。
「何かあったのか?」
「もしかして事故にでも巻き込まれたとか?」

…周りがざわつき始めた頃、彼は遅れて現れた。
朝礼が終わり、上司から遅刻の理由を聞かれると、彼は一言「寝坊しました」。

普通なら、呆れるか、何かしら責められるはず。
でもその場で出たのは、そういう声ではなかった。
「仕事を頑張りすぎて、体調が悪いんじゃないか」
「もっと彼をフォローしてあげるべきじゃないのか」
誰一人として、彼を責める人間はいなかった。

信頼とは、失敗やミスが無いから得られる、というわけではない。
普段からの一貫した姿勢が積み重なることで、失敗やアクシデントが起きた時でさえ「きっと何か理由があるはずだ」という解釈が生まれる。

自分軸から生まれた一貫した姿勢こそが、周囲からの信頼を作り上げていく。


では、どうすれば信頼は積まれるのか?
これは、特別難しいスキルは必要ない。
と言うことで、いくつか例を挙げておきます。

・曖昧なことを曖昧にしない
「たぶん大丈夫だと思います」ではなく、「今の時点ではわかりません。〇日までに確認します」と言う。
不確かなことをそのままにせず誠実に向き合おうとする人間を、人は信頼する。

・NOと言える場面でNOと言う
引き受けられない時に「ちょっと難しいですね」とぼかすのではなく、「申し訳ありませんが、今は対応が難しい状況です」とはっきり伝える。
断られた相手は少し残念に思うかもしれない。
でも「この人は誠実に対応しようとしている」という印象が残る。

・意見が違う時、それをきちんと示す
もちろん相手の意見を正面から否定する必要はない。
「なるほど、そういう考え方もありますね」と受け取りながら、「そのうえで、こういう見方もできると思っていてー」と自分の考えを重ねる。
yes,but(なるほど、しかし私はこう思う)ではなくyes,and(なるほど、それに加えてこういう考えもありますよね)で話をつなぐ。
相手を否定せず、しかし自分の軸も消さない。

・約束の重みを変えない
小さな約束を、大きな約束と同じ重さで扱う。
何となく「次回にしましょう」と言ったことを、次に会った時にちゃんと覚えている。
それだけで、相手の中での存在感はまったく変わる。

と言うことで、どれも派手なことは何もない。
ただ、自分の軸を一貫して示し続けること。それだけ。
表面上の仲の良さを頑張って作ろうとするより、ずっとシンプル。


仲の良さは、短期的には機能するかもしれない。
でも1年、2年、3年…という時間軸で見ると、自分軸のある人間の周りに残る関係の質は、まったく違うものになっている。

「人から好かれようとして周りに振り回される人間」にではなく、「自分軸をしっかり示せる人間」に、人は深いところで惹かれる。